畳縁は、なぜ児島唐琴に集まったか
真田紐の町に浜松から伝わった光輝縁、無地から柄物への変化、よく聞く「全国の約8割」の中身、手芸の生地へ広がるまで。
編集部|公開:2026年11月6日
畳のへりを縁どる細い布が、畳縁だ。畳の角がすり減るのを防ぎ、畳を敷き合わせたときにできる隙間を締める[s1]。倉敷市の日本遺産の紹介は、全国の畳縁の約8割が児島でつくられていると書いている[s2]。畳のへりの布が、なぜ瀬戸内の小さな町に集まったのか。
真田紐の町に、浜松から
児島では江戸時代、干拓地で塩に強い綿を植え、小倉織や真田紐をつくるようになった[s5]。唐琴は、この真田紐の伝統を受け継いだ土地だ[s5]。
いまの畳縁の原型は、明治から大正にかけて生まれた「光輝縁」とされる[s3]。それまでの、ふつうの布を細く裁っただけの縁と区別するために、「光輝」の字を冠した[s3]。浜松の城北機業が、靴紐に使う艶のある糸を生かして考え出したといわれる[s6]。
大正10年(1921年)ごろ、唐琴出身の松井武平がこの製法を浜松から学び、児島に持ち込んだといわれる[s6][s7][s10]。武平は、学んだ技術を唐琴の人々に惜しみなく伝えたので、いまも「唐琴の大恩人」と呼ばれている[s6]。
唐琴の織物の家は、次々と畳縁に移っていった[s10]。綿の袴地から始まった松井織物は、三代目が大正10年ごろから、分家にあたる武平に畳縁を学んだ[s8]。小倉帯をつくっていた崇神坊織物は、小倉帯の売れ行きが落ちて、昭和2年ごろから光輝畳縁に移った[s9]。真田紐を織っていた髙田織物も、畳縁へと仕事を移していく[s10]。
1923年の関東大震災で畳縁の需要は大きく伸び、昭和に入ると、唐琴は全国の30%をつくる産地になったとされる[s5]。
無地から柄へ
当時の畳縁は、綿の黒や茶色の無地が主流だった[s1]。戦後、ほかの会社に後れをとった髙田織物は、値段を下げる代わりに柄で差をつける道を選ぶ[s1]。1962年、ジャガードを載せた織機で、綿の無地にポリエチレンの糸で柄を出した「大宮縁」をつくり、全国に売り出した[s1][s10]。
そこから畳縁は、無地から柄物へ、綿から合成繊維へと移っていった[s10]。いまでは麻や綿に、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステルなどが加わり、色も柄も多彩になっている[s3]。
「約8割」の中身
地元や地域の資料は、そろって8割前後と書く[s2][s4][s5]。ただ、児島の8割なのか、唐琴の8割なのか、言い方は資料によって少しずつ違い、いつの数字かも書かれていない[s2][s4][s5]。
国の製造業の品目別の統計には、畳縁だけの項目がない[s11]。いちばん近い「細幅織物」の出荷額は、2024年に全国で約334億円、岡山県は約13億円だった[s11]。ただ、細幅織物には畳縁のほかリボンやテープなども入り[s13]、個人経営の工場は数えていない[s11]。この統計から、畳縁の何割が児島かを出すことはできない。「約8割」は、地元でそう言われている数字として受け取っておくのがいい。
どの資料もそろって伝えるのは、作り手が減ってきたことだ。1970年代に全国で約100社あった畳縁のメーカーは20社ほどになり、全体の生産量も減り続けたという[s1]。児島商工会議所のサイトは、児島に約20社の畳縁の会社があると書いている[s4]。需要の落ち込みは、品ぞろえにも表れている。松井織物は2023年、半世紀売ってきた「ワイド」という畳縁の製造を、需要の大きな減少を理由に終えた[s12]。
畳の外へ
髙田織物によると、畳縁の最小ロットは10畳分で、6畳や8畳の部屋の畳を替えると余りが出る[s1]。無地ならほかの畳に回せるが、柄物は難しい[s1]。髙田織物が畳縁を手芸の生地として売り始めたのは、この余りを生かすためでもあり、それ以上に、畳を替える機会の少ない人にも気軽に手に取ってもらうためだった[s1]。2014年には、工場の直営店 FLAT を開いている[s1]。
畳縁は軽くて丈夫で、立体的な加工にも向く[s5]。地元では、もともと小物の材料にも使われてきた[s14]。いまでは、バッグやポーチ、小銭入れ、ペンケースの材料にもなっている[s5]。
畳を替える予定がなくても、畳縁は手に取れる。唐琴で織られた一本を探すなら、名鑑の髙田織物(FLAT)から見ていくといい。
この産地のブランド
- 髙田織物(FLAT)畳縁・畳縁の生地(ロール)
出典
- s1こうしてヒット商品は生まれた! 畳縁(2021年11月22日)(日本商工会議所(日商 Assist Biz)、2026年11月6日閲覧)
- s2日本遺産 倉敷市「イ草・畳縁」(倉敷市日本遺産推進協議会、2026年11月6日閲覧)
- s3畳縁ストーリー 1章 畳縁の歴史(こじまさんぽ)(児島商工会議所、2026年11月6日閲覧)
- s4畳縁ストーリー 3章(こじまさんぽ)(児島商工会議所、2026年11月6日閲覧)
- s5児島畳縁(中国地域の歴史ある地域産品、2022年2月)(中国経済連合会、2026年11月6日閲覧)
- s6畳縁(くらしき地域資源ミュージアム、2024年12月更新)(倉敷観光WEB(倉敷市観光情報発信協議会)、2026年11月6日閲覧)
- s7「一輪の綿花から始まる倉敷物語」調査研究事業報告書(2019年3月)(倉敷市(近代化遺産研究会による調査研究)、2026年11月6日閲覧)
- s8当社の歴史(松井織物株式会社、2026年11月6日閲覧)
- s9崇神坊織物 有限会社(倉敷の老舗)(倉敷観光WEB(倉敷市観光情報発信協議会)、2026年11月6日閲覧)
- s10沿革(髙田織物株式会社、2026年11月6日閲覧)
- s112025年経済構造実態調査 製造業事業所調査 品目別統計表(2024年実績)(経済産業省(e-Stat)、2026年11月6日閲覧)
- s12重要なお知らせ(商品の製造終了について、2023年10月10日)(松井織物株式会社、2026年11月6日閲覧)
- s14FLATのストーリー(髙田織物株式会社、2026年11月6日閲覧)
- s13日本標準産業分類 1125 細幅織物業(2023年7月改定)(総務省(e-Stat)、2026年11月6日閲覧)