マスキングテープは、なぜ和紙なのか

塗装の境目を守る道具として生まれたマスキングテープが、日本で和紙からつくられ、倉敷のハエ取り紙の会社が手がけるようになるまで。

編集部|公開:2026年11月6日

手帳の端や贈りものの包みに、色や柄のテープを貼る人は多い。いまでは文房具の売り場の定番だが、マスキングテープはもともと、まったく別の仕事のための道具だった。その仕事のための道具が、日本ではなぜ和紙でつくられてきたのか。

塗装の境目を守るテープ

マスキングは、英語で「覆い隠す」という意味だ[s2]。塗装のときに、塗らない部分を紙で覆って、周りを汚さないようにする[s2][s4]。粘着テープが工業の現場で最初に使われたのも、自動車の塗装のマスキングだったという[s4]。

ただ、当時、薄い紙に粘着剤を塗ったテープは、重ねて巻いたり剥がしたりすると、紙の層が割れやすかった[s5]。この課題を解決したのが、のちに3M社に入るアメリカのリチャード・G・ドルーだ[s5]。ちりめん状の薄い紙にニカワをしみ込ませてから粘着剤を塗ると、重ねて剥がしても層が割れず、巻き戻しもできるようになった[s5]。こうして1925年、最初のマスキングテープが生まれた[s5]。

日本では、はじめから和紙で

日本でマスキングテープのもとになったのは、テープ状の絆創膏だった[s6]。その前から使われていた膏薬は、ミツマタなどを原料にした和紙を支えにしていた[s6]。そうした流れの中で、日本のマスキングテープは、最初から和紙を使ってつくられていった[s6]。和紙は薄手でも強いので、粘着剤を塗る前の下処理がいらなかった[s6]。背面には、巻いたテープを使うときに毛羽立たないよう、また塗料や溶剤がしみ込まないよう、樹脂を塗った[s6]。

薄い和紙のテープは、塗料との段差ができにくい[s3]。倉敷のカモ井加工紙の本社工場長は、2021年の倉敷市の取材に、自社の粘着テープの約8割は和紙で、繊維の方向や絡み具合まで設計して、薄さと丈夫さ、境目のくっきりした仕上がりを求めていると話している[s2]。どんな素材にもくっつき、なのに剥がしやすいという、相反する性質を一本にまとめたのが粘着テープで、その世界は奥が深いという[s2]。

ハエ取り紙の会社が、テープをつくる

カモ井加工紙は、1923年に「カモ井のハイトリ紙製造所」として創業した[s1][s3]。1961年、ハエ取り紙でつちかった技術を生かして、紙の粘着テープの製造を始める[s1][s2]。翌1962年には、自動車の普及を背景に、自動車の塗装に使う和紙のテープを出した[s1][s3]。ハエ取り紙の粘着の技術が、塗装の境目を守るテープに移っていったことになる。

工業用のこのテープを、色と柄の雑貨に変えたのが、2008年に出した mt だ[s1]。mt は発売のころから、倉敷の本社工場で巻き取り、幅をそろえて切って仕上げている[s2]。雑貨の mt が生まれたいきさつは、名鑑の mt にまとめた。

倉敷とテープ

倉敷観光WEB は、倉敷市は「マスキングテープ発祥の地」と言われていると書き、続けて、養生用だったテープを文房具としてつくりはじめたことを紹介している[s7]。テープそのものはアメリカで生まれているので[s2][s5]、ここでいう発祥は、雑貨としてのマスキングテープのことだろう。

工業用と雑貨のほかにも、テープの技術は使われている。2018年の西日本豪雨をきっかけに、倉敷市の消防局とカモ井加工紙は、災害のときの捜索で使う「倉敷テープ」をいっしょに開発した[s8]。このテープにも、厚手の和紙が使われている[s8]。

文房具の売り場に並ぶ一巻も、もとをたどれば、塗装の境目を守るために薄く強くつくられた和紙のテープだ。

この産地のブランド

出典

  1. s1沿革・ヒストリー(カモ井加工紙株式会社、2026年11月6日閲覧)
  2. s2特集40 カモ井加工紙(クラシキ文華、2021年11月22日)(倉敷市 くらしき情報発信課、2026年11月6日閲覧)
  3. s3マスキングテープ(くらしき地域資源ミュージアム)(倉敷観光WEB(倉敷市観光情報発信協議会)、2026年11月6日閲覧)
  4. s4テープの歴史館 マスキングテープ(1)(日東電工株式会社、2026年11月6日閲覧)
  5. s5テープの歴史館 マスキングテープ(2)(日東電工株式会社、2026年11月6日閲覧)
  6. s6テープの歴史館 マスキングテープ(4)(日東電工株式会社、2026年11月6日閲覧)
  7. s7マスキングテープ発祥の地を巡るコース(倉敷観光WEB(倉敷市観光情報発信協議会)、2026年11月6日閲覧)
  8. s8積み重ねた知見・技術が、災害時に役立つアイテムに。「倉敷テープ」開発秘話(2025年4月4日)(カモ井加工紙株式会社、2026年11月6日閲覧)