倉敷のい草の田んぼは、どこへ行ったか

干拓地で植えられたい草が、錦莞莚と花ござの輸出を生み、1960年代半ばを境に田んぼが減っていくまで。いま倉敷のい草製品を選ぶときに見るところ。

編集部|公開:2026年11月6日

倉敷は、かつてい草の町だったと聞く。ところが、いま国の統計でい草の作付けを調べているのは、熊本県だけだ[s9]。2026年産の熊本県のい草の作付けは217ha だ[s10]。倉敷のい草は、いつ、どこへ行ったのか。

干拓地に植えた草

倉敷の平野の多くは、江戸時代から進んだ干拓でできた土地だ[s1]。干拓したばかりの土地は塩気が多く、米づくりに向かない[s1]。そこで、塩に強い綿やい草が植えられた[s1][s2]。

い草は、庄村と茶屋町のあたりを中心に、江戸時代から盛んにつくられた[s1]。茶屋町そのものも、1683年から1707年にかけての児島湾の干拓で生まれた新田の村だ[s5]。この土地では米づくりが主で、い草は米の裏作としてつくられていた[s5]。

隣の早島では、短いい草を中ほどで継いで織った畳表が、「早島表」の名で全国に知られた[s13]。

錦莞莚と花ござ

刈ったい草のおもな行き先は、畳表だ。畳表は、い草を横糸に、糸を縦糸にして織ったもので、国の規格ではござの類と分けている[s11]。い草を色とりどりに染め、模様を織り込んだ敷物は、花莚、花ござと呼ばれる[s12]。

倉敷の花ござを大きく変えたのは、茶屋町出身の磯崎眠亀だ[s4]。1873年のウィーン万国博覧会に出品されたセイロン産の莚(竜鬢莚)を見て、岡山のい草で精巧で細かな莚を織ろうと思い立ったといわれる[s3]。1878年、眠亀は「錦莞莚」を発明する[s4]。それまでの花ござの3倍、幅一尺につき120本の縦糸を張り、伸び縮みしないい草が切れないよう、特別な方法と織機で織った[s4]。

発明の3年後には輸出が始まり、ほかにもさまざまな花ござが考え出されて、北米や中国に向けた輸出品に育った[s2]。倉敷市は、茶屋町が全国一の花莚の産地になったと紹介している[s1]。その栄えぶりは「備中茶屋町今神戸」といわれたとも伝えられる[s1]。錦莞莚そのものは、輸出先の関税の壁や花ござの不況で生産が減り、昭和の初めに織られたものが最後とされる[s3][s4]。

5,550haから47haへ

い草の田んぼの広がりは、国の作物統計で追える。1960年、岡山県のい草の作付けは3,700ha で、全国7,540ha のほぼ半分だった[s6][s7]。1964年には5,550ha まで広がる[s6]。全国の作付けも12,300ha で、1926年からの累年の統計でこの年が最も多い[s7]。

そこから先は早い。1968年には熊本県が3,880ha となり、岡山県の3,600ha を上回った[s6][s8]。1972年の岡山県は1,740ha で、熊本県は6,250ha[s6][s8]。この累年の統計で岡山県の数字が載る最後の年、1993年には47ha になっていた[s6]。

茶屋町のい草づくりは昭和37、8年ごろに盛りを迎え、そのあと水島のコンビナートの建設と高度経済成長が進むなかで急に減った[s5]。隣の早島町も、1964年に作付けと畳表の生産が最も多くなり、2000年には作付けがなくなった[s13]。

いま、倉敷のい草製品を選ぶとき

いまの畳表は、多くが輸入だ。令和7年(2024年7月〜2025年6月)の畳表は、国産が103万枚、輸入が458万枚だった[s9]。

倉敷のい草製品も、い草の産地はさまざまだ。名鑑の今吉商店(IGUSA LABO)は、倉敷市内で自社が管理する田んぼでい草を育てていると、公式サイトに書いている[s15]。萩原の寝ござ「吉備」は、熊本県八代地方のい草を、倉敷の提携先の織元が織る[s16]。須浪亨商店のいかごは、倉敷のい草ではなく、熊本で出る短い屑のい草をあえて選んでいると、2022年の記事が紹介している[s14]。

どれも、倉敷で織ったり編んだりしていることに変わりはない。い草の田んぼまで倉敷のものを探すなら、品物の説明で「い草の産地」を確かめるところから始めるといい。

この産地のブランド

出典

  1. s1一輪の綿花から始まる倉敷物語(日本遺産)(倉敷市 日本遺産推進室、2026年11月6日閲覧)
  2. s2一輪の綿花から始まる倉敷物語(日本遺産ポータルサイト)(文化庁、2026年11月6日閲覧)
  3. s3倉敷市立磯崎眠亀記念館(倉敷市 文化財保護課、2026年11月6日閲覧)
  4. s4錦莞莚(紋様織込)(倉敷市 文化財保護課、2026年11月6日閲覧)
  5. s5重化学コンビナート建設といぐさ生産地帯における村落の変質構造(小内透、1985年)(北海道大学、2026年11月6日閲覧)
  6. s6作物統計 収穫量累年統計「い」(岡山)(農林水産省(e-Stat)、2026年11月6日閲覧)
  7. s7作物統計 収穫量累年統計「い」(全国)(農林水産省(e-Stat)、2026年11月6日閲覧)
  8. s8作物統計 収穫量累年統計「い」(熊本)(農林水産省(e-Stat)、2026年11月6日閲覧)
  9. s9いぐさ(畳表)をめぐる事情(令和8年10月)(農林水産省、2026年11月6日閲覧)
  10. s10令和8年産「い」の作付面積、収穫量及び畳表生産量(熊本県)(農林水産省 統計部、2026年11月6日閲覧)
  11. s11日本農林規格 畳表(JAS 1017:2024)(農林水産省、2026年11月6日閲覧)
  12. s12花莚(日本大百科全書、コトバンク)(小学館(コトバンク)、2026年11月6日閲覧)
  13. s13い草のまち、早島(早島町、2026年11月6日閲覧)
  14. s14倉敷に残る唯一の畑とつくり手物語(2022年7月1日)(和樂web(小学館)、2026年11月6日閲覧)
  15. s15い草の栽培(IGUSA LABO)(IGUSA LABO、2026年11月6日閲覧)
  16. s16寝ござ 吉備 商品ページ(萩原株式会社、2026年11月6日閲覧)